バイカル湖
シャーマニズムが息づくオリホン島とブリヤート族の村々
&セメンスキエの口承文化
2015年春、世界で最も深く透明な湖バイカル湖に向かいました。
もちろん近くの都市イルクーツクまでの直行便はなく、行はハバロフスク経由、帰りは北京経由となりました。
旅の理由は、
・日本人の祖先がバイカル湖畔から渡ってきたという説があるため
・バイカル湖近辺はいまだにシャーマニズムを信仰しており、特に湖内のオリホン島は聖地もある
・そしてブリヤート族という遊牧民が信じているチベット仏教がロシアの征服とソ連によってどう変容したのか
を観るためです。
■イルクーツクから湖畔の村リストヴィヤンカまで。
・イルクーツクからバイカル湖までは車で1時間ほど。
そして途中の道中は白樺の林が続いており、タリティ木造建築博物館があります。
ここは、シベリア各地から木造建築物をこの一帯に集め、教会や住宅、学校、サウナなどを保存しています。
・家の中にはロシア正教のイコンが飾られ、そしてお茶を飲んでいた。そしてペーチカと呼ばれる暖炉の上をベッドにしている。
・一方、ブリヤート族のユンタルと呼ばれる住居もある。モンゴルのゲルとは異なり、夏と冬の木造の固定した家を持っていたとのこと。
・シベリアの土地は寒いのでコインをポケットに入れなかった。口に含み支払いはペッと払う感じらしい。
そして興味深いのは、シャーマンの家に置かれていた赤い人形。精霊を表しているらしい。
そして今ではロシア人の家庭にも飾られている。
風習の融合、というか征服する側が被征服者の風習を取り入れているのが面白い。もちろん、それも元々ロシア人、というか人類が保持している精霊やアニミズム、そういった共感があったのだろう。
・バイカル湖手前の川の中ほどにぽこんと岩が出ている。
これは、昔シャーマンが本物かどうか見極めるために、この岩の上で一晩過ごせたかどうか試験をするために使われたらしい。
そして、浮気をした奥さんの裁判も同じようにここで無事過ごせるか見られたらしい。
・リストヴィヤンカには、アザラシを展示したり、火山の状況説明するバイカル湖博物館や、遊ぶための青空レストランや湖の家も並んでいる。
そして日本人墓地。普通にロシア人墓地の中に、シベリヤ抑留された日本人の墓地がある。こちらはきちんと区画整理されている。
イルクーツクだったか、ウランウデだったか忘れたが、日本人抑留者が建てた建築がいまだに団地などで使われているとのこと。しかし、普通の地元の人はそれを知らず、ガイドさんだから知っているのよ、とのことだった。
(続く)
■オリホン島の島めぐり
・オリホン島へ向かう道中は、ブリヤート族の信仰が見て取れる。
鷲と馬が聖なる動物で敬われており、鷲の像やがあり、交通の安全を祈るノボというトーテンポールなどがある。
・冬はバイカル湖は凍結しジープで渡れるが、春のこのタイミングでは流氷程度。ボートで数十分でオリホン島に渡る。
・オリホン島にわたるとちっぽけなジープで地元のおじいさんが案内してくれた。
〇島民はみなシャーマニズムを信仰し、今でも3人のシャーマンが居るそう。結婚式やお葬式にはシャーマンに段取りなどを教わり、年に一度は普通に夢占いや死んだ人との会話に伺うそう。
〇島の至る所に伝承が残っていて、3人の男がシャーマンに岩にされたところや、ワニやライオンの島など。日本昔話のようだ。
〇このおじいさんからは、日本は福島の原発は大丈夫だったか、や、ソ連時代は潤っていたがその後物々交換の経済になった、など教えてくれた。
・そしてパワースポットと呼べるのは、ここシャーマニカ。
数百人のシャーマンが集まり祭祀を行うこともあるそう。そしてチベット仏教徒が仏像を置いた仏教聖地でもある。
ここに来ると、非常にパワーを感じる。普段は霊的な感覚0だが、ここはパワーがある。
・そしてこの丘の上で韓国人と20-30分話す。
神父さん、仲間でシベリア鉄道で旅しているとのこと。昔は父親の家庭内暴力で自分自身もやさぐれていたが、キリスト教で回心し今の自分になったとのこと。
これまで出会った韓国人の神父さんに悪い人はいない。一言二言しか話していないが、人間味が伝わる。
・ここの最後、道中に卒塔婆も見える。
しかし案内おじいさんに聞くと、「仏教が来たから魚が捕れなくなった」などとも言っている。
シャーマニカでは、シャーマニズムと仏教徒が折り合っているかと感じたが、そうでもない。
どのようにすれば、宗教など最も人間の深いところで異質なものを許容できるのだろうか?
(続く)
■ウスチオルダのシャーマンに合う。
・オリホン島を離れたのち、ウスチオルダ村の博物館を見学。
ここは、ブリヤート族の風習や歴史が学べ、シャーマニズムの信仰もわかる。
・ブリヤード族は大きく3つの部族に分かれ、2つはオオカミが祖先、残りは白鳥が祖先という伝承があるそう。
・シャーマンの世界では、3つに分かれ、神・精霊が住む天井、そして人間が住む地上、そして死人の地下。
■そしてここではシャーマンにお会いできた。
・シャーマンにも社会構成があり(教会組織?)、9つある段位の中で5番目に位置する方でした。シャーマンの家系11代目であり、社会の先生を普段しているとのこと。
・日本というか東アジア圏の原始基層文化にシャーマニズムやアニミズムがあるのを感じます。もしくは類似していると言って良い。
・シャーマンの儀式では、太陽に向かいお祈りをし、火を焚き煙で清め、ミルクを捧げる。そして口で願いを唱えながら祈り、右回りに捧げ物の回りを周り太陽へ礼。これを3回繰り返す。
=祭壇を作り、湯で清め、イノシシを捧げ、神を下ろす面などの依代を奉り、形式に則った繰り返しがある日本の神社の拝礼や神楽と類似?
・シャーマニズムに因ると、草にも神様がいて、人が踏んで殺しても空や太陽のところに行く。
=太陽の再生の力、仏教の輪廻?
・シャーマンの心がけとして、悪いことを考えない、行わないこと。また私へのアドバイスとして、赤色を身につけない、革を身につけない、など。
=神道の忌避文化の一種?
・シャーマンの手にしている5式の色紐に、長生きや清純の意味があり、家に飾る。邪を祓う御守りを飾り、赤ちゃんベットには馬の骨の飾りで無事に育つよう祈る。
=色や物に霊力?道教の5色の札や陰陽師?
・シャーマニズムには、お墓とは別に、先祖の家族がいた場所を示すノボというポールがある。男も女も自分の先祖のところへお参りに行く。
=儒教の先祖崇拝、位牌?
・世界は3つの階層に分かれていて、上は神様が、真ん中に人間、下に死んだ人。
=古事記の黄泉の国、根の国?
(続く)
■ウランウデとセメンスキエの村
・バイカル湖周遊から、次はウランウデへ。ここはレーニンの頭像が有名な場所。
・ブリヤート族が多いが、多くは仏教徒。中にはシャーマニズムもいるらしい。
ロシアの仏教の中心的寺院イヴォルギンスキー・ダツァンには、熱心にお祈りしている人が多い。
マニ車もあり、太陰暦で人の神様も決まるらしい。
・ここのガイドさんから面白い話を聞く。
40歳ぐらいのおじさんがいて仕事は仏像を作るなどしていた。ある時、急に神が降りてきたらしく、シャーマニズムになったそう。
家族内で不和になったり問題にならなかったのか、と聞いたところ、「シャーマンとして毎朝私たちを祈ってくれているし、全く問題ない」とのこと。
■ユネスコ無形文化遺産のセメンスキエの口承文化
・ウランウデ近郊にあるセメンスキエの村を見学。
この方々は、ロシア南方やポーランドから迫害を逃れて数百年前に移り住み、今でも昔ながらの古儀式派セメイスキエを信仰している。
お祈りの作法が違ったり、聖書が違うらしい。
チベット仏教、ロシア正教古儀式派、シャーマニズム、これらが一つの地域に存立しているのは面白い。
(続く)
■今回の旅は、一人一人のフィーチャーストーリが興味深く、そこから敷衍的な発見も感じられました。
人間の根底としてのアニミズムやシャーマニズムがあることを認識できた良い旅でした。
こういった場所は世界中にあるのだろうか、
そしてそれはいつまで残るのだろうか、
一神教化後、産業化後、近代化以後、人類は新たな文明というのをどう築くのか、
そんなことを今から考えされられる。
(終わり)